日本に住んでいれば強制的に加入している「国民年金」。ただでさえ良く分かっていないのに、海外に行くとどうなるのだろうかと不安になりますよね。海外赴任やそれに帯同した場合の国民年金について、ケース別にご紹介します。
その他、海外赴任に際して必要な手続きについては以下にまとめています。
国民年金の加入者の種類
まずは、基本の「国民年金・厚生年金の加入者の種類」についてです。加入者の種類は3種類あります。
第1号被保険者:自営業者や学生等 。20歳以上65歳未満で海外に住んでいる日本人が国民年金に任意加入する場合も第1号被保険者となる。
第2号被保険者:厚生年金保険の加入者(会社員等)及び共済組合の加入者(公務員等)。
第3号被保険者:第2号被保険者(夫など)に扶養される配偶者(20歳以上60歳未満)。第3号被保険者である期間は、自分で保険料を納付する必要はなく、保険料納付済期間として将来の年金額に反映される。
基本的に会社に勤務していて海外赴任するということになった場合、夫は第2号ですね。帯同する妻は何らかの形で会社で仕事を続けられれば第2号のままですが、退職する場合など、夫(第2号被保険者)に扶養されることになった場合には第3号になります。第3号被保険者になると、保険料を納付しなくても納付期間に加えられるのでありがたいですね。該当する旨の届出を必ず夫の勤務する会社に提出しましょう。こちらについては「帯同する妻が会社を退職した時の国民年金の手続き」の項にも記載します。
ちなみに、将来年金を受け取るために必要な納付の年数は以前は「25年」でしたが、平成29年8月から「10年」に短縮されたそうです。詳しくは日本年金機構のHPにあります。
「海外赴任する夫」と「帯同する妻」のケース分け
今回は日本企業に勤務している夫が海外赴任することになり、それに妻が帯同するという前提でお話しします。その場合いくつかのケースがあり、ケースごとに年金の支払いが異なってきます。すごく分かりにくく感じるのですが、ケース分けをするとそこまで煩雑ではありません。
分類
まず、大まかには「妻が仕事を続けるか退職するか」によってケースが異なります。さらに、それぞれのケースにおいて、以下の点でも異なってきますので、詳細は各項をご覧ください。
- 赴任先が社会保障協定を締結している国かどうか
- 赴任期間が5年以内か5年超か
妻も仕事を続けている場合
夫、妻共に、「日本企業に勤務している場合の手続き」の項をご覧ください。
妻が退職した場合
夫については「日本企業に勤務している場合の手続き」の項、妻については「帯同する妻が会社を退職した時の国民年金の手続き」の項をご覧ください。
日本企業に勤務している場合の手続き
「海外赴任する夫」や「仕事を続ける妻」の手続きは、「海外への派遣期間」と「日本との社会保障協定を締結している国かどうか」について異なってきます。
「社会保障協定」とは、「日本と赴任先の国での保険料の二重負担を防止するため」、「日本と赴任先の国の年金制度への加入期間を通算することで加入期間の要件を満たしやすくするため」に締結している協定です。2019年10月1日時点で、日本は23ヶ国と協定を署名済で、うち20ヶ国は発効しています。(イギリス、韓国、イタリア及び中国については、「保険料の二重負担防止」のみ)
発行済みの国:ドイツ イギリス 韓国 アメリカ ベルギー フランス カナダ オーストラリア オランダ チェコ(※) スペイン アイルランド ブラジル スイス ハンガリー インド ルクセンブルク フィリピン スロバキア 中国
未発行の国:イタリア スウェーデン フィンランド
日本との社会保障協定を締結している国の場合
派遣期間が「5年以内」の場合:
日本の社会保障制度に継続して加入することになり、赴任先の国社会保障制度への加入は不要です。要請があれば「適用証明書」を相手国保険機関等に提示します。「適用証明書」は、日本での事業主が年金事務所に申請手続きを行うことで交付されます。
アメリカでの注意事項:6ヶ月ルール
アメリカにおける注意事項の1つが「6ヶ月ルール」です。日本の企業からアメリカに派遣される場合、アメリカの社会保障制度の免除を受けるためには、アメリカに派遣される直前に6ヶ月以上継続して日本で就労、または居住し、日本の社会保険制度に加入していることが条件として追加されます。国によって注意事項が異なるので、詳細は「協定相手国別の注意事項」をご確認ください。
派遣期間が「5年超」の場合:
国によっては一時派遣の延長が認められる場合もありますが、赴任期間が5年を超えると原則として赴任先の国の社会保障制度にのみ加入します。追加で日本の社会保障制度に任意加入することもできます。
アメリカにおける注意事項:期間延長
アメリカにおいては5年の期限を超えて4年までの延長の場合、届け出ることによって一時派遣の延長が認められることがあります。詳細は「協定相手国別の注意事項:アメリカ」の5番に記載されています。
日本との社会保障協定を締結していない国の場合
原則、赴任先の国の社会保障制度に加入し、日本の社会保障制度にも継続して加入します。
帯同する妻が会社を退職した時の国民年金の手続き
夫(第2号被保険者)の海外赴任に帯同するにあたり「退職した妻」がすべき手続きは、夫の扶養になるかどうかによって異なります。
基本的には扶養になると思いますが、夫の会社の方針によっては妻の退職時期や収入などにより厳密に計算し、扶養にしてくれないというところもあるようです。
また、退職してから出国までに失業保険を受給している場合、受給額が一定額以上の場合は、受給期間は夫の扶養には入れず第一号被保険者になるので、あわせて確認しておきましょう。
被扶養者になる場合
夫の扶養になる場合は、第3号被保険者になるための資格取得の手続きが必要です。夫の勤務先を通して書類の提出を行います。手続きがされているか、念のため会社に確認しておくと安心ですね。
この場合、夫が「社会保障協定締結済みの国に5年以内の赴任」なら上述の通り夫は日本の社会保険制度に加入し続け、妻は扶養なので保険料の負担なしに保険料を払ったものとして将来年金を受け取ることができます。
夫の「赴任期間が5年を超える」場合は、妻も現地の社会保障制度への加入が必要な可能性があり、日本の国民年金に加入したい場合は任意加入の必要があります。また、夫が「社会保障協定を締結していない国に赴任する」場合は、妻も現地の社会保障制度に加入する必要があるかもしれませんので確認しましょう。
被扶養者にならない場合
夫の扶養にならない場合は、第1号被保険者への切り替え手続きを行います。この場合、海外に居住する時は、任意で保険料を納付する必要があります。これについては次の「第1号被保険者が海外に居住する場合の手続き」で記載します。
第1号被保険者が海外に居住する場合の手続き
第1号被保険者が海外に居住することになった時は、国民年金は強制加入ではなく任意加入になります。
任意加入の場合も保険料を納めていれば、国内の第1号被保険者と同様に老齢基礎年金を受け取ることができ、海外在住期間に死亡したときや病気やけがで障害が残ったときには遺族基礎年金や障害基礎年金の支給も受けられます。
手続き
任意加入する場合は、海外に転居する前に、住んでいる市区町村の役所で手続きを行います。
また、帰国し日本に住民登録した場合は強制加入になるので、転入した市区町村の役所で手続きをする必要があります。
保険料の納付方法
保険料については、国内にいる親族等に代わりに納めてもらう方法と、日本国内に開設している預貯金口座から引き落とす方法があります。
ねんきん定期便の受け取り方法
日本にいれば年に1回「ねんきん定期便」が送られてくるので、自分がきちんと納付できているかを確認できますが、海外に居住している場合は自動では送られてきません。海外で「ねんきん定期便」を受け取りたい場合は、手続きが必要になります。「ねんきん定期便お申込みページ」から申し込みをすると、手続き1回につき1回の送付で、申し込みから約3ヶ月後にエアメールで届きます。手続きの方法が整っているのは安心ですね。
まとめ
複雑に思える国民年金・厚生年金の仕組みですが、夫が会社に勤務していて海外に派遣され、妻が帯同する場合は、会社が手続きをしてくれる部分が多いため意外とわかりやすいのではないでしょうか。社会保障協定が発行されていない国に赴任する場合や、赴任期間が5年を超える場合には少し注意が必要なので、事前に大まかに把握しておくと安心ですね。
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